>読書感想>羅生門に啼く

>読書> 羅生門に啼く

 第一回京都文学賞受賞作です。
 時は、平城京から京都に遷都して200年弱、さしものの朝廷の権威も衰え、洛中には疫病が猛威を振るっていたころのお話です。 京都の南端、羅生門は荒れ果て、その西にある羅城門の外(洛外)は湿地帯で草ボウボウ、人の住まない荒れ地でした。
これを背景にして物語は進んで行きます。
 洛外森の中、掘っ立て小屋に隠れ住む主人公は、生まれながらの孤児です。 懸命に生きますが運命に流され、次第に悪党の道に入って行きます。 あるとき押し込み強盗に失敗し、捕まります。
 首をはねられそうになったとき、通りがかった空也上人に助けられます。 空也上人について、疫病死者を弔ううちに、次第に人の生について考える様になって行きます。
 偶然、押し込み強盗で両親を殺され、身寄りを無くした身重のおなごを助けることになります。 懸命に、出産まで面倒を見ます。 いよいよ出産のときを迎えますが・・・

感想

  1. さすが脚本家、物語は具体的かつビジュアルな表現で進んで行きます。 展開も読む人を飽きさせません。 上に述べた背景を常に念頭におきながら読むと、より味わい深いと思われます。
  2. 西暦950年頃の京都を舞台にした、登場するのは、意図せず貧困に落とされた幸少ない人達です。 主人公は、接する人達を、始めは意識せず死に追いやります。 空也上人に助けられてから、しだいに人間の生を考えるようになり、最後に自分を含め、罪を背負いながら生きて行こうと決心します。
  3. 物語は、余韻を残しながら幕を下ろします。 受賞時の題である「もう森へは行かない」であれば、主人公は、新しく誕生した赤子と共に、「生」への旅立ちをすることを暗示させます。 改題した「羅生門に啼く」ならば、主人公の将来は、読者の想像に任せることになります。
 極限の人間達を描くことにより、人間とはなにかを考えさせられる、すべての人にお薦めの本です。

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基本情報

 書名: #羅生門に啼く
 著者: #松下隆一さん
 ISBN:  #978-4-10-353751-9
 出版日: 2020-11-25
 出版社: #新潮社
 読書日: 2020-12-02

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